ダニイル・グレイヘンガウス︰我々は"オペラ座の怪人"と"カルメン"をアリーナ・ザキトワに選んだ。彼女はそれまで演じた誰よりも上手く、その曲を滑る事が出来る。(後半)

グレイヘンガウスさんのインタビュー、後半です。

I→質問者

G→ダニイル・グレイヘンガウスさん

 

https://fs-gossips.com/daniil-gleichengauz-we-chose-phantom-of-the-opera-and-carmen-for-zagitova-she-is-able-to-skate-these-pieces-better-than-everyone-else-who-have-skated-before/

 

(インタビュー後半)

I︰今シーズン、貴方はアスリートのために有名な楽曲を選びました。アリーナ・ザキトワは"オペラ座の怪人"と"カルメン"を滑りました。アレーナ・コストルナヤは"ロミオとジュリエット"、アレクサンドラ・トゥルソワには"キルビル"と"フィフス・エレメント"のオリジナル楽曲。

これを選んだのは、このイメージが良く知られていて、見る人にとって理解しやすいからですか?

 

G︰僕はその質問を理解しています。貴方は誰もが知っている音楽のプログラムを上げましたね。でもコストルナヤ、シェルバコワ、ウサチェワ、ワリエワや他の選手達にとっては、多くの人々にとって未知の音楽を選びました。"僕達が見つけた"と言えるものです。

貴方の質問に答えますと、僕は50:50の割合で執着しています。一つのプログラムにはヒット曲を、もう一つには未知の楽曲を。時々、僕達は有名曲を取ります。でも予想外な芸術的イメージを考えます。

例えば、僕達は一度ポリーナ・ツルスカヤに"ゲーム・オブ・スローンズ"のオリジナル楽曲を選びました。でもそのプログラムのアイデアは、ショーでは何も出来ないものでした。

アリーナへの2つのプログラムに関しては、ある事実から始まりました。それは、以前に"オペラ座の怪人"と"カルメン"を滑った誰よりも彼女はその曲を上手く出来る、という事です。それは僕の希望でもありました。何故ならこの曲を振付けた事が一度も無かったからです。ゴールは、これから3、4年は誰もやらないような、そんなプログラムにする事でした。ザキトワがやったようには演技出来ないと選手達が分かるような。

 

I︰振付師は、誰も知らない音楽をヒット曲にするようなプログラムを作れるでしょうか?

 

G︰もちろんです。それが振付師の仕事です。ただ、この状況下にいるだけでは、とある予想外のアイデアや興味深いイメージ、或いは新しい振付が、そこにあるのみです。付け加えて、アスリートにプログラムを表現する十分な技術がある事です。そうでなければ、完全に失敗してしまうでしょう。振付師達が、劣っているスケーターに対して、有名曲で平凡なプログラムを作る時。僕はそれは更に大きな失敗だとさえ思います。

 

I︰どのようなポイントから、この音楽は強い芸術的なイメージが創り出せる、と理解しますか?

 

G︰恐らく、その瞬間は、独りでヘッドフォンで音楽を聞いている時です。そして、アイデアが浮び上って来ます。イメージが見えて、そしてプログラムも。でも、この全てのアイデアはエテリ・ゲオルギエヴナのチェック、管理に合格しなければいけません。もしアイデアが弱かったり、余りにも変だったら(時々僕に起こる事です)、合格しません。

彼女は言います。「良いですね。でも歌詞が無かったら、これは誰も理解出来ないでしょう。貴方はどうやってこのプログラムを他の人々に説明しますか?」

そして僕達はそのアイデアを選ぶ事も、拒否する事もしないのです。一緒に決断をします。何故ならミスは出来ないからです。

 

I︰何のプログラムが貴方の評価の中ではベストですか?

 

G︰僕の選択では、恐らく誰も驚かないでしょう。何故なら本当にベストなプログラムが僕達の時代の中にあるからです。僕はニコライ・モロゾフアレクセイ・ヤグディンに振り付けたプログラムを見て育ちました。"ウィンター"、そして"仮面の男"です。子供の頃、このプログラムにとても感銘を受けました。氷上へ行って、あのステップや動きをやってみたりしました。

それから、ステファン・ランビエールのプログラムです。全てが気に入っていました、猛烈にね。記憶するために、何度も何度も見ました。今では、ランビエールはコーチになりました。彼の振り付けたプログラムは、殆どいつも人は言い当てますよ。何故なら彼の選択はいつも、とてもユニークですから。彼のスタイルがアスリートに常に合う訳ではない、というのはまた別の問題です。

次は、恐らく僕はパトリック・チャンの名前を上げます。ショウマ・ウノ、ユヅル・ハニュウ、勿論ネイサン・チェンです。

 

I︰何故ネイサン・チェンが貴方にとって興味深いのでしょうか?

 

G︰彼はトランジションの無いプログラムのために良く批判されます。でもチェンはとても練習熱心で、フロアから氷上への振付の移行に挑んでいます。それは典型的なフィギュアスケートではありません。

何故なら伝統的に僕達はもっとバレエに関心を持ちます。彼のプログラムでは、彼がダンスをしているのが見えます。これが彼のスタイルになるでしょう。彼にただ時間を与えて下さい。彼は荒々しく、リズミックで、爆発的です。誰も彼に"ロミオとジュリエット"や叙情的なプログラムを期待しないでしょう。

彼には独自のスタイルがあります。彼はもっと燃えるようで、攻撃的で、ますますスケートを滑るようになるでしょう。僕達はこれから更に"彼自身"を見ることになります。

僕はハビエル・フェルナンデスにも言及したいです。欧州選手権で彼の輝かしいキャリアを終えました。彼のガラのプログラムは驚くほどでした。とても美しく振り付けてあったのです。見ずにはいられないような、様々な面白いものがありました。

 

I︰面白い事に、貴方は男子シングルのスケートから例を上げました。女子はどうですか?

 

G︰誰の名前を上げればいいのかさえ分からないです。僕にとっては、ユナ・キム、マオ・アサダ、カロリーナ・コストナー。彼女たちのプログラムはいつも際立っています。

でもユリア・リプニツカヤのプログラムです。世間でよく"アイデアのある"と言われ始めたものです。イリヤアベルブフとエテリ・トゥトゥべリーゼが多くのユリアの良いプログラムを手掛けました。それは他のアスリート達のものとは違うのです。"シンドラーのリスト"だけではありません。"メガポリス"もそうです。凧と共に走っているように思われたものです。

そしてジェーニャ・メドベージェワのプログラムです。初めに"聞こえる、聞こえない。"、それから"子供時代との別れ"と呼ばれたショートプログラムです。そして9.11のプログラムと、その他にも。これらのプログラムは、一般的な背景に反していて、際立って優れています。

 

I︰他のコーチが、貴方を自分のスケーターの振付のために招待したりしますか?

 

G︰誰の手伝いでも、僕は幸せです。僕達が競技者で無くなってからは、ペアスケーターにでもアイスダンサーにでも提供するでしょう。彼らが勝つ事を手伝えたとしたら、幸せでしょうね。何故なら、僕は自分たちのアスリートをどの競技区分においてもベストにしたいのです。

 

I︰貴方は世界で最も強い女子シングルスケーターのグループの振付師です。貴方がこのスポーツのトレンドを生み出していると気づいていますか?貴方がプログラムをやり始める時、どんな原則に貴方は先導されますか?アスリートを勝たせるために、どんな工夫をしますか?

 

G︰僕はここで何か新しい事は言いません。それぞれのアスリートは何かにおいて強いものです。あるスケーターはジャンプが良い、その他のスケーターはスピン、三人目はスケートが滑る。

僕の務めは、プログラムを通してスケーターのベストを引き出すのを手伝う事です。もしスケーターが何かが上手く出来ないのなら、プログラムの中でそれを隠すための百万もの意見を、僕は探し出します。そうすればスケーターが出来ない事を、誰も推測すらしないのです。僕達はプログラムに取り掛かります。科学者が公式に取り掛かるように。ベストなものだけが有るようにします。

プログラムとは観客の心を捕らえるべきです。そうすれば、誰もそのアスリートが何かが出来ないと考え始めたりしません。当然ですが、これは全てのプログラム、アスリートで出来る事ではないです。でも僕達は努力しています。

 

I︰ボリショイ劇場のプリマバレリーナはオデット−オディールを演じます。振付を変える事は出来ません。どんなに難しくても、やりにくくても、それは彼女の振付です。バレリーナはどちらも演じる事が出来て、そして彼女はソリストです。若しくは、彼女がそれが出来なければ、コール・ド・バレエ、舞踊団員として踊ります。

フィギュアスケートでは、振付師が独りでアスリートの能力から取り組んで行きます。これはある種の譲歩です。当たっていますか?

 

G︰振付が一定でなければ、そう言えます。アスリートのレベルを受け入れるものですから、そういった譲歩はあります。ただフィギュアスケートとは、厳格に定められた要素があるスポーツです。それぞれのカテゴリーと年齢には、記述された全てのレベルがあります。もし、貴方がその必要条件が分からないのなら、スポーツのキャリアを終えて下さい。そこには二択はありません。でも休暇の中にはもっと行動の自由があります。

そしてそれはコーチ、振付師にかかっています。その定められた要素を演じるために、アスリートの能力をどのように引き出す事が出来るのか。振付というのは、自己表現の広大なエリアに及ぶのです。

 

I︰もしアスリートが音楽を持ち込んで、こう言うとしたら。「これで滑りたいです」

又は何か違う事を提案したら。それはどう感じますか?

 

G︰アスリートが何かを提案する事を、僕はいつも歓迎しますよ。そのように取り組んでくれたなら、素晴らしいじゃないですか!

ただそれは、僕達は熱狂的に全ての提案を受け入れる、という事は意味しません。14から16歳くらいの年齢は、全ての少年少女がプログラムの興味深いアイデアを考えつく事は出来ません。自分達のために音楽を選ぶ事や、その他の事もです。

もしある少女がチュチュを着てスケートをする事を夢見ていたとして、僕達は彼女がバレエ的ではない、と見るとします。そうなると、当然ですが彼女にはやらせません。

もし僕達が提案された音楽やアイデアを気にいれば、プロとして、そのプログラムで勝てる事が分かるものです。全てがここではシンプルです。

 

I︰それでは貴方は、選択の自由において貴方のアスリートに限界を作るのですか?

 

G︰この質問では、それは自由とは違います。プロフェッショナリズムにおいての事です。コーチは全体の絵を見ます。アスリートの強み、能力を知っています。コーチは音楽、振付のトレンドを観察しています。でも同時に、アスリートにプログラムが上手く合うように、何か革新的な動きを探しているものです。

この過程では、もしアスリートが成功したいのならば、"これがやりたい"とか"やりたくない"、"これが好き"とか"好きじゃない"だとかによって、レベルを下げる事は出来ないのです。

想像して下さい。もしサッカーチームの選手がコーチに言うとします。その選手が、ゲームを進展させるための戦略を支持したくない、と言います。彼が従うはずの戦略にです。

又はフォワードが言うとします。彼は攻撃のプレーをやりたくない、と。でもゴールキーパーがやりたいのだ、と。ここでも同じ事です。コーチはアスリートがベストな結果を出せるように、最適な戦略を選びます。

僕達にとって、大切な事はアスリートを成功へ導く事です。僕達が提案し、作った音楽とプログラムで、特別なシーズンにおいて最大限の事を成し遂げるのを助ける事です。

 

I︰私はカミラ・ワリエワのショートプログラム、"Girl on the ball"を見ました。私の意見では、このプログラムは五輪で見る価値があります。地方の試合ではなく。そのようなアイデアを子供たちの試合のために使う事は気にしないのですか?

 

G︰アイデアそのものはエテリ・ゲオルギエヴナが所有するものです。ノヴォゴルスクの夜に僕達が座って話す時、彼女はアイデアと共にやって来ます。プログラムについて考えるのです。僕達は一般的に、そのプログラムがどのようなものか、概略を述べます。更に、見つけた音楽がプログラムに合うという事も。

僕達が氷上で作業を始めると、僕は動きの中にもう少し現代的なものを加えたい、と思うのです。特にカミラが振付の側面において非常に才能がある少女だからです。彼女との作業は簡単です。

 

はい。このプログラムは恐らく五輪のプログラムに出来たでしょう。でもそれは、12歳のカミラが今年やったように、誰か他のアスリートが滑る事が出来るとか、そういう事では無いです。また、カミラ自身が17、18歳の時にこのプログラムを滑る事が出来る、という事でもありません。

従って、もし僕達が創造的な鼓動を感じたら、それを留めておく事はしないようにしています。将来のために残す、とかはしません。

もしかしたら、誰かがこう言うかもしれませんね。僕達はとても無駄使いをしている、と。でも僕達には信念があります。五輪シーズンには何か良いものを作れるという信念です。何か、記憶に残るようなものをね。

 

 

終。